台風19号が猛威を振るっていて、間違いなく2019年最大級と言える被害が出ています。
とりわけ大量の降雨によって関東だけでなく長野県や福島県などかなりの広範囲で河川の氾濫が起こっています。
中には緊急放流しなければならない状況のダムもいくつも出てきています。
ダムを緊急放流すると下流の地域で水害が起こることもあるということで、「なぜ台風が来るのは分かっていたのに事前に流しておかなかったのか」「予告の時間より早く流しておかしい」「ダムのせいで洪水になるなら人災だ」などの声があります。
しかし本当にそうなのか、感情的にならずしっかりデータも見ていくことが必要です。
今回はダムが洪水調節をしている仕組みをわかりやすくまとめたいと思います。
もくじ
台風の前にダムは事前に水を流していた事実は?
1番最初に緊急放流のニュースが流れたのは神奈川県の城山ダムでしたので、わかりやすく城山ダムを例に解説します。
ダムを緊急放流することになりましたが、ダムの職員は緊急放流まで黙って見ていたわけではないようです。
それはダムの機能の1つである「治水」という観点からです。
治水とは今回の台風19号のように大雨になった時に、川が氾濫しないように調節することです。
城山ダムが台風のために事前に放流を行っていたという資料がこちらです。
ダム管理に普段携わってる身から言わせてもらうと、城山ダムはめっちゃ頑張って昨日の夕方から徹夜で事前放流して雨を貯めるために水位下げてんだからな。異常すぎるほどの量が入ってきているから異常洪水時防災操作は仕方のないことですよ。むしろここまで粘ってくれていることがすごいよ。 pic.twitter.com/XIYammpJfa
— レクスボルト@超英雄イレースありがとう (@rexbolt_dobo18) October 12, 2019
台風が来る前の11日から段階的に貯水位が下がっていっているのが確かにデータを見ると分かります。
12日になってからも流入量に対し放流を行って貯水位が急激に上がらないように調整している様子が見て取れます。
このようにダムが台風の水を留めつつ、下流にドバッと流れていかないようにずっとコントロールしていたと言えるのではないかなと思います。
【10月14日追記】国交省の見解では事前の水位調節がされていなかったと報道
10月14日付の信濃毎日新聞と東京新聞で緊急放流を行った6ダムで事前の水位調節が行われていなかったとの見解を示したと報道されました。
【事前の水位調節がされなかったとされる6ダム】
- 美和ダム
- 高柴ダム
- 水沼ダム
- 竜神ダム
- 塩原ダム
- 城山ダム
その記事がこちらです。
私の言いたかったことは、多目的ダムの洪水調節機能について。利水のために維持水位を高めておきたいから、耐えきれなくなった時の放流する量が大きくなる。やはり、昨年の愛媛の教訓は生かされてなかった。今後しっかり検証を求め、提案をしていきます。(14日付信濃毎日新聞、東京新聞) pic.twitter.com/yXkutfDbgP
— 高橋千鶴子 (@chiduko916) October 14, 2019
国交省がいう事前の水位調節がどの程度のレベルまで水位を下げておくことなのかまでは書かれていません。
事前の水位調節が行われていなかったとするならばデータ上でも貯水位に変化が無いはずなのですが、城山ダムの実際のデータでは11日の22:00ごろから徐々に貯水位は下がっていっているのですよね。
※キャプチャのため画像が荒いです。データをご覧になりたい方は以下のURLのページで公開されています。
>>>国土交通省 川の防災情報(城山ダム過去のデータ)
※SSL化されていないURLのため警告が出る可能性がありますが、間違いなく国土交通省のサイトです。
このレベルの貯水位の低下では事前の水位調節には入らないということなのか、貯水位を下げる為に放流量を上げているのは事実でもあるのでそれをもっと早くから行わなければならなかったということなのか、いまいち説明が足りないように感じます。
国交省は事前の水位調節は基準貯水量に比べてどの程度まですると決められているのかも説明してくれないと検証にならない気がします。
早急に検証していただき、新聞・メディア各社も客観的にしっかり報じていただきたいです。
事前に流していてもなぜ緊急放流する必要がある?その理由は?
事前放流も行いコントロールしていたのならなぜ緊急放流しなきゃならなくなったの?と疑問に思う方もいると思います。
それは想定外の大雨になっているからということに尽きるようです。
ダムの運用としては通常はダムへの流入量>下流への放流量となるようになっていて、下流に流れない分が貯まっていきます。
それが流入量が多くなり貯められないところまで来ると「異常洪水時防災操作(緊急放流)」が検討されることになります。
異常洪水時防災操作に入るとダムへの流入量=下流への放流量となり、ダムに貯まらない状態になるということになるそうです。
ダムが無いのと同じ状態になるとも言えると思います。
分かりやすく絵にしてくれている方がいるのでこちらをご覧ください。
ダム放流って、絵にするとこういう状態なんだよ。もう既に逃げる時間作ってくれてるんだよ。ダムの人が頑張って食い止めてるうちに早く逃げてマジで逃げて!#緊急放流 #警戒レベル5 #多摩川 #相模川 #全員避難 #川の様子 #拡散希望 pic.twitter.com/vf4rVODo89
これ
— ?о?????@無言F失 (@Suga_roooy_Min) October 12, 2019
まさにダムが下流の人々が避難する時間を稼いでくれているイメージなのですね。
耐えに耐えて”緊急放流せざるを得ない”というギリギリのところまで来てしまったということになるわけです。
実際城山ダムでは当初17時から緊急放流するのを、水位の上昇の割合が少なくなったことから延期しましたね。
ダムを管理している方々にとっても緊急放流はしないに越したことはないのではないでしょうか。
城山ダムの緊急放流が夜になってらは遅い!?その理由は
ギリギリまで粘って5時間も時間を稼いでくれたダム関係者には感謝しかないです。 https://t.co/Sp5JtEYSMq
— ぜろわん@毎日絵を描く (@01wonderful) October 12, 2019
関連して、結果的に城山ダムは22時に緊急放流をすることになりました。
実際は22時前に危機的状況になったため21時半に前倒しになりましたね。
これに関して、
- なぜ夜で暗くなって避難ができなくなってからするんだ!
- 22時と言っていたのに嘘つきだ
と言う方も見受けられました。
これに関しては17時に緊急放流の可能性が出てきた時点で、避難することをかなり強くテレビなどでも促していましたし、17時から「延期」となっただけで中止にはなっていませんでした。
22時ごろまでは何とか持ちこたえていたものの、それよりも相当に大雨になってしまったことで21時半に結果的にフライングしたような形になってしまいました。
しかしこれは言い換えれば17時リミットだった避難の時間を、21時半まで延ばしてくれていたことに他ならないのではないでしょうか。
4時間あまりの避難の猶予ができていたともいえると思います。
その背景がニュースなどでもくわしく報道されないため、誤解を生んでしまっていると思います。
今回の台風19号では各地で同時に災害が起こっている状況になった為に1つの地域に対しての報道が少なく、差し迫った状況がテレビでは報じられなかったように感じます。
実際に13日の深夜に利根川の決壊の恐れというエリアメールが流れ、住民が避難を始めたのが2時半ごろでしたが、4時になってもNHKでは避難指示が出たとは言われましたが川の状況などは報じられませんでした。
緊急放流についても実施、延期、中止、このあたりの言い方についてもう少し検証の余地がありそうに思います。
延期と言われて「もうしないんだ、大丈夫だ」と思ってしまった方もいるかもしれませんからね。
今回のまとめ
今回の台風19号(2019)のようなことは実は2018年の西日本豪雨の時に愛媛県で起こっていました。
この時はダムの放流により下流で水害が発生し死者も出ています。
しかしこれは関東などではあまりくわしく報道されなかったのではないでしょうか?
もし報道されたとしても関東の方が見て「自分ごと」と捉えるのも難しかったのではないでしょうか。
私は関西に住んでいるのでこの時の西日本豪雨をモロにくらい、本当に命の危機を感じました。
でも関東の友達は豪雨のことをほぼ意識してませんでした。
私は東日本大震災も経験しました。
でも関西人の夫はあまり実感がありません。
このように自分の身に危機が及ばないとなかなか理解は難しいものです。
こういうのも変ですが、城山ダムの件は関東のことですしニュースでもたくさん取り上げられやすかったりします。
今回の緊急放流について多方面から情報を得て、ダムの仕組みや治水についてもう少し日本国民全員が意識を高める機会にすべきと思います。
感情的に「ダムのせいで洪水を起こすなんて!」「なぜ夜になってから流すんだ!」という方は少し落ち着いていろんな情報を集めて欲しいと思います。
この情報も多くの方に届けば幸いです。
最後にダムや治水管理の関係者の方々に敬意と感謝を送りたいです。
コメント
事前放流を充分した上でなら、仕方がないが、あまりにも無責任な、切迫したので緊急放流が、許されているのが怖い。多くの人が、毎回命を失っている、事前放流の徹底と、豪雨のピークを少しでも外す、適正な放流方法の研究を望みます。
城山ダムの水位を下げたのは事前放流ではなく予備放流と呼ばれるレベルだったからではないでしょうか
エビスさんコメントありがとうございます。
私もその後いろいろ調べたのですが、エビスさんの言われている認識が今のところ近いと思いました。
そうなると新聞の「何もしてなかった」と言わんばかりの報道は事実誤認を生むと思っています。
新聞もデータをきちっと出して「どれだけの事前対応が足りなかった」と言うべきだと思います。
そもそもダム建設当初にかなり余裕を持たせていたはずの想定をはるかに超えてしまうレベルの大雨だったという事でしょう。
既に昨今の災害状況からダムの嵩上げ工事や河川の治水増強工事など出来ることから対策講じつつ、対応マニュアルなども議論されていることに違いはないようです。
ですが、正直なところ地震も含めて全国広範囲で災害復旧に手が掛かっており、どこかを集中的にとは言っていられない厳しい現状があります。あまり現場の人たちを責め立て過ぎるのも酷な話かなと感じます。
そして報道は誰かを一方的に責めても仕方がない、起きてしまった問題に対してどのように改善するべきなのかを皆で考えられるような記事であるべきだと思います。
ゆうたんさんコメントありがとうございます。建設的なご意見大変感謝です。
>そもそもダム建設当初にかなり余裕を持たせていたはずの想定をはるかに超えてしまうレベルの大雨だったという事でしょう。
これは私も同感です。その上で各地のダム関係者が尽力してくださっていたことで救われた命もたくさんあると思っています。
>そして報道は誰かを一方的に責めても仕方がない、起きてしまった問題に対して
どのように改善するべきなのかを皆で考えられるような記事であるべきだと思います。
こちらに対してもまったく同感です。「6ダムが事前放流せず」という新聞報道でミスリードしている結果となっていてとても残念です。
城山ダムに関して言えば、確かにマイナスに食い込ませる「事前放流」ではなかったかもしれませんが、放流は行われていました。(その他のダムに関しても個別のツイートが出ているようです)
・事前放流といえないが放流した量は適切だったのか
・利権者との調整はどうなっているのか、現場判断で放流できたのか(利水ダムの場合マイナスにする許可は誰が出すのか)
など新聞報道側もデータが無さ過ぎると思いますので、新聞を読まれた方も情報を多方面で集めて欲しいです。
私もまったく専門家ではないですが、今回のことでいろいろデータを見て学んでいます。
それは誰でもやろうと思えばできるはずです。